小説・青空症候群







「天候性変動型鬱病ですね。」
その優しそうな若い医師は表情を変えずに言った。
「え?」
と少年の母親は思わず言ってしまった。聞いたこともない無い病気を息子に宣告された事に対する驚き、そしてなぜよりによって家の息子が鬱を患わなければならないかという疑問に対する「え?」であった。 少年は白い格子の入った窓の向こうをじっと見ている。医師は続ける。
「天候性変動型鬱病というのは文字どおり鬱病の一種なのですが世間で話題になっているものとどこが違うのかと言いますと、とにかく青空に偏執するようになってしまうのです。極端に申しますと雨や曇りの日は一般的な鬱病患者と同じ症状が出て、晴れていて青空の時は鬱病の症状が出ない又は鬱状態が軽くなるということです。」
一気にこう若い医師はまくし立てるとちらりと少年のほうを見た、彼はまだ依然として窓の向こうを見つめている。心なしか目が楽しそうだ。少年の母親はおずおずと訊いた。
「先生、あの・・・やはり鬱病となると自殺に走ったりするんじゃ?その・・・天候性・・うつ・・・」
とつまずいたところで医師が助け舟をだす。
「天候性変動型鬱病ですか?」
「はい・・それです。」
「いえ、お子さんの場合早期発見ができましたのでこれから適切な処置を施せば自殺に走るまで進行することはないでしょう。それこそ、ご家族のご理解があれば完治する事だってもちろん可能です。ただあせり過ぎは禁物ですよ。・・・抗うつ剤を出しておきましょう、鬱状態がひどい場合は服用するようにして下さい。何かありましたらまたいらして下さいね。」
その何かが来ない事を切に祈りつつ母親は軽く頭を下げると少年の形のいい頭が視界の端に写った。まだ相変わらず窓の外を見つめている。その視線の奥を追うと胸が締め付けられるほど青く、澄んだ青空があった。そして母子はもう一度頭を下げると静かに引き戸を引いて診療室を後にした。



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